ターオイ族の若者の一人、ホー・ヴァン・ドイさんは、ベトナム中部のフエ市アー・ルオイ第3コミューンの国境近くにあるアー・サップ集落で生まれました。この地域は、ベトナムの中でも特に遠隔地にあり、条件の厳しい地域のひとつです。
8人きょうだいの家庭に育ったドイさんの家は、生活に余裕がなく、トウモロコシやコメの収穫は天候に大きく左右されていました。そのため、学校に通うには並々ならぬ努力と強い意志が必要でした。ドイさんは、教育こそが貧困の連鎖を断ち切る鍵だと信じていました。
2020年、ドイさんは学びへの強い意欲とターオイ族の文化的アイデンティティへの深い愛着に突き動かされ、故郷の村を離れて首都ハノイにある民族宗教省管轄のベトナム民族学院で学び始めました。
教師や仲間たちの支えを受けながら、ドイさんは次第に自信をつけ、学校や地域のさまざまな活動に積極的に参加するようになりました。
このグループの活動は、祖先から受け継いだ文化遺産を称えるだけでなく、民族文化を守り、広めていこうという誇りと責任感を若者たちの間に育んでいる。
伝統文化への情熱と、他の民族とのつながりを深めたいという思いから、ドイさんは仲間たちとともに、2023年3月に「ベトナム54民族コミュニティ」を立ち上げました。このグループはその後、約2,000人が参加する活発な交流の場へと発展しています。
活動の内容は、モン族の新年を紹介する行事や文化公演、伝統織物の体験ワークショップ、民族衣装や料理に関するセミナーなど多岐にわたります。こうした取り組みは、祖先から受け継がれた文化遺産を称えるだけでなく、若者たちに民族文化を守り、広めていこうという誇りと責任感を育んでいます。
「同級生の多くがターオイ族のことを知らなかったことに驚きました。それが、私たちの文化を伝えたいと思うきっかけになりました。これは、人と文化を結び、物語を紡いでいく旅であり、それぞれの若者が民族文化の鮮やかなモザイクの一部になることを意味しています」とドイさんは話します。
献身的な活動が評価され、ドイさんは2024年、「村の輝く模範」としての称号や「ヴー・アー・ジン賞」など、いくつもの賞を受けています。
 ゲアン省ナムカン国境コミューンのピエンホム村では、タイ族の人々が主に農耕によって生活を営んでいます。この村の出身で、ハノイ工科大学情報技術学部に通うカー・ヴァン・トゥオンさんも、民族文化の保存に力を注ぐ若者の一人です。
トゥオンさんは、タイ族の伝統芸術を守ることを目的に2018年に設立された「ハノイ・タイ族学生コミュニティ」の代表を務めています。
「資金は限られていますが、私たちは各地で文化活動や交流を続けています。異なる背景を持ちながらも、力を合わせて、少数民族の若者たちが自信を持って自らの文化遺産を守る取り組みに参加できるよう支えています」と、トゥオンさんは話します。
情熱と粘り強さを持つ少数民族の若者たちは、国内外の人々に独自の文化的価値を伝える先駆者となっている。
ベトナム民族学院のチャン・クオック・フン講師は、ハノイで活動する少数民族出身の若者たちの努力を高く評価し、彼らが伝統文化を発信し、民族間のつながりを育むうえで積極的な役割を果たしていると述べました。
また、フン氏は、若者たちがソーシャルメディアやデジタルツール、文化イベントを巧みに活用し、現代社会に適応しながら、伝統文化を守るだけでなく、よみがえらせている点を強調しました。
情熱とたくましさを胸に、こうした若者たちは、民族固有の文化的価値を国内外の人々に伝える先駆的な役割を担っています。
フン氏はまた、現代社会において民族のアイデンティティを守り続けるためには、若者自身の勇気と自信に加え、地域社会や教育機関、関係機関からの適切かつ持続的な支援が欠かせないと強調しました。