成長目標を支える効果的なインフレ抑制

ベトナム経済は2025年第3四半期に、供給面と需要面の双方の回復に支えられ、力強い成長を遂げました。一方で、インフレ率は前年同期比3.27%の上昇にとどまり、国会が設定した4~4.5%の目標範囲を大きく下回りました。堅調な成長の中でも物価が安定していることは、効果的な物価抑制策の成果を示しています。

WinMart+で商品を手に取る買い物客(写真:MINH HUU)
WinMart+で商品を手に取る買い物客(写真:MINH HUU)

高い経済成長を持続させるためには、生産と成長を支えることと、国会が定めた目標の範囲内でインフレを抑制することの二つの目的のバランスを取った物価管理政策が求められます。

インフレ抑制の十分な余地

政府が発表した2025年社会経済発展計画の実施状況および2026年の見通しに関する報告によりますと、ベトナムのマクロ経済の安定性は依然として確固たるものであり、経済の基盤は均衡が取れ、力強い成長と良好に管理されたインフレが維持されています。

経済はあらゆる面で着実に前進しており、主な指標として、2025年のGDP成長率は8%を超える見通しで、名目GDPは約5,100億ドルに達し、世界で第32位となる見込みです。1人当たり所得は5,000ドルに迫り、ベトナムは正式に高中所得国グループ入りを果たすとみられています。また、消費者物価指数(CPI)の上昇率は4%未満にとどまり、急速な景気回復の中でも11年連続でインフレを抑制していることになります。

財政・金融政策の両面で成長支援のために緩和策が取られているにもかかわらず、ベトナムのインフレが安定している理由について、ベトナム投資開発銀行(BIDV)のチーフエコノミスト、カン・ヴァン・ルック博士は、主な要因は貨幣流通速度の鈍化にあると説明します。2025年9月末時点で、通貨供給量は前年比8.5%増、貸出は年初から13.4%増加しましたが、貨幣流通速度は0.65倍にとどまり、通常の0.9~1倍を大きく下回っているということです。

これは、流通する資金が増えても、経済全体で十分に循環しておらず、公共投資や民間部門での資金の流れなど、いくつかの分野で停滞が続いていることを意味しています。その結果、インフレは抑制された状態にあります。さらに、年間を通じてインフレを抑えるうえで重要な要因となっているのが、食料、燃料、石油など生活必需品の価格を厳格に管理するとともに、十分な供給を確保していることです。

統計総局(GSO)によりますと、2025年1月から9月までの消費者物価指数(CPI)は、8か月は前月比で上昇し、1か月は前月比で下落となりました。このうち、1月の上昇率が最も高く0.98%だった一方で、3月は0.03%の下落となりました。9か月間のコアインフレ率は前年同期比3.19%上昇と、CPI全体の平均上昇率3.27%を下回りました。これは、食料、家庭用電力、医療、教育などCPI上昇に大きな影響を与える品目群が、コアインフレの算出対象から除外されているためです。

GSO物価統計局のグエン・トゥ・オアイン局長は、インフレ抑制の成果について、政府の指導の下、各省庁や地方が連携して物価管理を総合的に実施し、特に生活必需品を中心に需給のバランスを確保したことが奏功したと述べました。また、付加価値税(VAT)の2%引き下げや、各種手数料・料金の減免、複数の品目に対する輸入関税の引き下げなど、市場を支える政策も継続的に実施されました。

地方レベルでも、産業振興プログラムの推進や中小企業支援、生産・経営活動の活性化、投資環境の改善などに積極的に取り組んでいます。こうした取り組みと、過去9か月間の社会経済の動向を踏まえ、オアイン局長は、国会が定めた目標を下回る水準で通年のインフレを抑制できる余地はまだ十分にあるとの見方を示しました。

油断のない政策運営を

2025年第3四半期には、複数の研究機関が相次いでベトナムの経済成長率予測を上方修正しました。アジア開発銀行(ADB)は「アジア経済見通し」報告で、2025年のベトナムのGDP成長率予測を4月時点の6.6%から6.7%に引き上げる一方、インフレ率の予測を4.0%から3.9%に引き下げました。HSBCも、年初から第3四半期までの好調な実績を受け、成長率予測を6.7%から7.9%に上方修正しました。一方、インフレ率予測は3.2%から3.3%へとわずかに引き上げましたが、インフレは十分に抑制されているとの考えを示しました。

カン・バン・ルック博士によりますと、2025年のインフレは大きな懸念材料ではないといいます。年間の平均CPIは3.8〜4%の範囲に収まり、国会が定めた目標を下回る見通しです。これは、さまざまな物価抑制策の効果と、全国的に安定した生活必需品やサービスの供給によるものです。

さらに、ベトナム国家銀行が為替相場と政策金利の安定を維持していることに加え、財政政策と金融政策の連携が一段と強化されたことも、インフレ抑制に寄与しています。ただし、年末にかけてはコストプッシュ要因と需要拡大による圧力から、インフレの上昇圧力が強まる可能性があるとしています。

具体的には、コストプッシュ要因として、年末にかけた輸入価格の上昇が挙げられます。これは、アメリカの関税政策や政府管理価格の引き上げなどの影響を受けています。一方、需要プル要因としては、経済成長の勢いが強まる中で資金需要が高まり、それに対応するための信用拡大が進んでいることが背景にあります。政策運営においては、特に台風や自然災害の影響を受ける時期においても、生活必需品やサービスの供給を十分に確保し、物価の安定とインフレ抑制を維持することが求められます。

専門家らは、現時点でインフレは管理可能な範囲にあるものの、政策運営において油断は禁物だと警鐘を鳴らしています。年末にかけては、一部地域での洪水の影響により、生鮮野菜や加工食品の価格上昇を中心に、食料・外食関連の物価指数が引き続き大幅に上昇する可能性があるとみられます。

これに加え、2025年に割り当てられた約1000兆ドンの公共投資資金を100%活用するという目標達成に向け、資金執行の加速圧力も高まっています。また、国家が管理する公共サービスに市場価格制度を導入するにあたっては、実際の消費者物価指数(CPI)の動向と整合性を保ちつつ、開発目標と社会の安定とのバランスを確保するよう慎重な検討が求められます。

第15期国会議員であるホアン・バン・クオン教授は、政策立案者はインフレへの期待に十分注意を払う必要があると指摘しています。すでに投機的資産の価格が大幅に上昇しており、企業や供給者が将来のコスト上昇を予想すると、販売価格を引き上げる傾向が強まります。これが経済全体の物価水準にも波及するおそれがあるとしています。

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