そのため、現在、AI、イノベーション、創造性の発展を促進・奨励しつつ、厳格なガバナンスを確保する適切な法的枠組みを構築することが不可欠となっています。これは、科学技術、イノベーション、国家のデジタルトランスフォーメーションにおける飛躍に関する党中央政治局の決議第57号の精神に沿ったものです。
国会科学技術環境委員会のチャン・ヴァン・カイ副委員長によりますと、人工知能法の迅速な策定は、安全で責任ある、人間中心のAIの研究・開発・応用・ガバナンスを推進する法的基盤の構築に寄与するといいます。
また、ベトナム商工会議所(VCCI)副会頭兼法務部長のダウ・アイン・トゥアン氏は、この法律はベトナムで初めて、AIの開発・応用からリスク管理、利用者保護に至るまで、AIエコシステム全体の法的基盤を確立するものになると述べました。
人工知能法案は、国際基準に沿った複数の重要な政策分野と本質的な内容に焦点を当てています。人間中心で持続可能性、透明性、責任を確保するAIの開発・応用の原則、リスクレベルに基づくAIシステムの分類と管理による安全性・セキュリティ・倫理遵守の確保、そしてイノベーションや新技術開発のための制御された試験(サンドボックス)制度などが盛り込まれています。
また、同法案は、ベトナム製AI製品・ソリューションの研究・開発・応用に企業が参画することを奨励する政策も打ち出しています。
法案作成に携わる専門家らは、AI技術が急速に進化していることを強調しています。技術革新の後追いにならないよう、法制度は機動的な更新や柔軟な規制を可能にする仕組みを備え、AIの活用と発展を後押しする形で整える必要があるとしています。
ダウ・アイン・トゥアン氏によりますと、この法律が実効性を持ち、発展の原動力となるためには、法的枠組みが柔軟性と適応性を確保しなければならないといいます。AIは変化の激しい分野であり、法規定には更新、試験、効果的な政策フィードバックの仕組みが伴う必要があり、過度な硬直性はイノベーションを阻害すると警鐘を鳴らしています。
同時に、AIの「燃料」とも言えるデータや計算インフラへの大規模な投資も不可欠です。質の高いデータと十分な計算能力がなければ、ベトナムは外部への依存から脱却できません。
知的財産分野で20年以上の経験を持つ弁護士のレー・スアン・ロック氏は、現時点でAIに明確な法制度を持つ国は存在しないと述べています。世界的な潮流は、AIの発展を尊重・促進し、AIを利用する当事者間の合意に基づく交渉で紛争を解決する方向にあるといいます。
ロック氏は、「現状で何が複製に該当するかを定義するのは極めて難しい。そのため、AIが国境を越えて発展している現状を踏まえ、草案では交渉と合意に基づく一般原則だけを示すべきだ」と述べました。
ダウ・アイン・トゥアン氏は、完璧な法的枠組みのひな型が存在しないからこそ、イノベーションを可能にする十分な安全性と、リスク管理のための透明性を兼ね備えた枠組みをベトナムが構築すべきだと提案します。「ベトナムは自国の状況に合った道を選ぶ必要がある。迅速でありつつも軽率ではなく、創造性を促しつつ責任もおろそかにしない道だ」と強調しました。
法案の中で企業から特に注目を集めているのが、開発者や提供者からAIシステムの運用者に至るまでの法的責任の所在の明確化を図っている点です。
AIを活用した法務支援システムを展開するベトナム法律コミュニケーションズ株式会社のチャン・ヴァン・チー社長は、AI の生成物に対する責任の所在をどう定めるかについて、明確な法的枠組みがない現状では企業側にとって大きな懸念材料になっていると述べました。その上で、同氏は、草案では提供者・開発者・導入者の間における知的財産権の境界を一層明確に規定する必要があると提案した。
また、法案は高リスクのAIシステムに対する法的責任も規定しています。これは妥当な方向性であるが、一部の企業代表からは、保険制度や責任限度、合理的かつ実効性のあるリスク基準の明確化が必要だとの指摘が出ています。また、企業、特に中小企業やスタートアップに対する行政的な負担は、可能な限り抑えるべきだとの意見もあります。
適合性評価や登録、届出に関する要件は、明確かつ透明で、企業の実情に即した実効性のあるロードマップによって定められる必要があります。