今年の映画祭は、1970年の創設から55周年を迎える節目の開催となり、今後のベトナム映画産業の力強い発展に向けた基盤づくりが期待されています。
注目の見どころ
第24回ベトナム映画祭には、さまざまなジャンルの144本の映画が集結し、これらの作品からは、映画制作者たちがテーマや物語表現の両面で革新を図ろうとする努力がうかがえます。選考委員会は、時代性、豊かな文化的アイデンティティ、明確な方向性、そして総合的で持続可能な発展を重視する基準に基づき、87作品(長編16本、ドキュメンタリー36本、科学映画14本、アニメーション21本)を公式出品作として選出しました。
特筆すべきは、コンペティションに参加する16本の長編映画のうち11本が興行収入1,000億ドンを突破しており、特に「Red Rain(赤い雨)」は7,000億ドン超を記録した点です。今年の映画祭では、特に革命戦争ジャンルの国家制作映画の復活が顕著で、「Red Rain」「The Tunnel: Sun in the Dark」「Airborne Battle」などが代表的な作品として挙げられます。
タ・クアン・ドン文化・スポーツ・観光省副大臣は、第23回映画祭(2023年)以降の2年間で、ベトナム映画界が力強さを見せていると評価しました。作品数・質の向上、映画市場の活性化、国際映画祭での高評価、新世代の自信と創造性あふれる映画人の台頭などがその表れだと指摘しました。多くの作品が文化大使として、ベトナムの国や人々、文化的アイデンティティの国際的な発信に貢献していると述べました。また、第24回映画祭では、従来の賞に加え、映画分野で特別な貢献をした個人・団体に対し、文化・スポーツ・観光大臣から表彰状が授与される新たな取り組みも導入されています。
今年の映画祭の見どころの一つは、過去2年間に制作されたコンペ外作品を集めたパノラマ・プログラムであり、多様なジャンルやスタイル、テーマの作品が披露されています。
ホーチミン市の映画愛好家は、「映画の視点で見るホーチミン市の躍進」写真展や、グエンフエ歩行者天国での「映画音楽」プログラム、さらには市の魅力を体験できるツアーやイベントなど、映画祭関連の多彩な催しを楽しむことができます。この機会に、ホーチミン市がユネスコから 「映画分野の創造都市」 に認定されたことも発表されました。
映画祭の枠組み内で開催されるテーマ別ワークショップや討論会は、アーティスト、映画の管理担当者、プロデューサー、配給会社、上映事業者らが経験を共有し、業界発展を促進する場となっています。チャーリー・グエン監督は、第24回ベトナム映画祭は、ベトナム映画が文化産業として本格的に成長していくための追い風となり、同国には観客、市場、内在的な力、そして国家の支援もそろっているという事実を改めて示すものだと前向きな見方を示しました。
発展への展望
1970年の創設以来、ベトナム映画祭は優れた映画作品を顕彰し、抗戦期からドイモイ(刷新)期、国際社会への参画の時代に至るまで、国の映画産業の歩みを映し出してきました。
これまでの映画祭を通じて、数多くの映画人材が発掘・表彰されてきました。彼らの絶え間ない創造と献身が、ベトナム映画界の強固な基盤を築いています。毎回、最優秀作品や個人に贈られるゴールデンロータス賞は、国の映画界を象徴する誇りにもなっています。
国内にとどまらず、多くのベトナム映画作品が世界の舞台に進出し、権威ある賞を受賞することで、地域や世界での地位を確立してきました。代表例としては、「Wild Fields」(グエン・ホン・セン監督、1979年)は1980年のベトナム映画祭でゴールデンロータス賞、1981年のモスクワ国際映画祭で金賞を受賞しています。
「When the Tenth Month Comes」(ダン・ニャット・ミン監督、1984年)は、1985年のベトナム映画祭でゴールデンロータス賞、1989年のアジア太平洋映画祭で特別賞、1985年のモスクワ国際映画祭で平和保護委員会から表彰を受けました。
「Sand Life」(グエン・タイン・ヴァン監督、1999年)は、2001年のベトナム映画祭でゴールデンロータス賞、2000年のアミアン映画祭で特別賞、同年のアジア太平洋映画祭で最優秀作品賞を受賞しました。
近年では、「Glorious Ashes」(ブイ・タック・チュエン監督、2022年)が2023年のベトナム映画祭でゴールデンロータス賞、フランス・ナントで開催された三大陸映画祭でゴールデンバルーン賞(Montgolfière D’or)を受賞しました。
ドキュメンタリー映画「The Children in the Mist」(ハー・レ・ジエム監督、2021年)は、2023年のベトナム映画祭でゴールデンロータス賞、ドカヴィヴ映画祭で国際映画最優秀賞、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀監督賞を受賞しました。
これまでの成果を礎に、第24回ベトナム映画祭は大規模な関連イベントと多様な文化空間を通じて、国家的な映画ブランドとしての威信を改めて示しています。
「ここは創造性を称える場であるだけでなく、ベトナム映画がより深く国際社会へ参画し、観客のニーズに応え、持続可能な発展を促進する架け橋でもある」と、映画局長のダン・チャン・クオン氏は強調しました。
ただし、新時代における映画産業の構築には、開かれた制度・政策、戦略的な投資資源、より強固な官民連携、質の高い人材の育成、国際協力の拡大、そして映画制作・配給における科学技術の積極的な活用が不可欠であることも指摘されています。
HKフィルムの代表であるプロデューサー、チン・ホアン氏は、「ベトナムが映画産業を持続的に発展させ、世界の映画潮流に歩調を合わせていくためには、独自性ある作品、海外市場での拡大が期待できる作品、投資リスクの高い作品に対する国家の支援が必要であり、こうした支援なしでは、グローバル市場への挑戦は能力のある一部企業や個人の努力に頼らざるを得ない状況が続くだろう」と提言しました。
現在の課題を乗り越えれば、ベトナム映画界は、民族的アイデンティティを体現しつつ、国際舞台で存在感を発揮し、その地位を確立していく力を備えた、文化産業の先導分野としての役割を十分に果たすことができるでしょう。