この政策は明確なロードマップとともに発表されており、企業が主体的に生産・事業計画を策定できる環境を整えると同時に、労働者にとっても所得向上への期待を高めるものとなっています。
生活費の上昇圧力が続き、労働生産性にもまだ大きな向上余地がある中で、社会保障政策や人材育成、企業支援を一体的に実施する必要があります。賃金が生産性と密接に連動し、社会保障が拡充されてこそ、賃上げは持続可能な発展の基盤となります。
安定した基盤を求めて
月収約800万ドンのベトフーズ工場(ハプロ工業団地、ハノイ市トゥアンアン社)で働くグエン・ティ・スアンさんは、現在の収入は家族の最低限の生活費を賄うのがやっとだと語ります。特に食品や日用品の価格が上昇する中で、突発的な支出が生じると家計のやり繰りは一層厳しくなります。現在の賃金は日々の生活を維持するには足りますが、長期的な安心をもたらす水準ではありません。2026年初頭からの最低賃金調整には一定の期待が寄せられていますが、実質所得が物価上昇に追いつかない中、生活費の重圧は依然として大きいといいます。生産現場で直接働く人々にとって、賃金引き上げはまず生活を安定させ、不安を軽減し、多少なりとも貯蓄を築く機会となります。
スアンさんの状況は、賃金収入に大きく依存しながら生活費の上昇に直面する工業団地の多くの労働者の共通した実感を反映しています。この現実は、最低賃金政策が労働者の最低生活水準を確保するため、実態を的確に反映する必要があることを示しています。
ベトナム食品株式会社のレ・ハウ・フオン社長によりますと、2026年からの最低賃金および社会保険拠出基準の改定は、特に利益率の低い中小企業にとって大きなコスト圧力となります。賃金とそれに基づく拠出金が同時に上昇するため、企業は競争力維持のために慎重な計算を迫られます。賃上げは経済発展や生活水準向上に伴う不可避の流れですが、重要なのは企業が資源配分や財務計画、人材戦略を主体的に調整できるよう、安定的かつ一体的な調整ロードマップを策定することです。
フオン社長は、企業が持続可能な道を歩むには、業務プロセスの改善や技術導入、労働者への人材育成を通じて生産性を高め、必要な福利厚生制度を十分に維持することが不可欠だといいます。また、使用者と労働者の間の率直で開かれた対話が、賃金調整を円滑に進め、長期的な安定と結束を確保する鍵になるとしています。
労働市場と長期的な社会保障の安定化
内務省のグエン・マイン・クオン副大臣によりますと、2025年末に発出される政令第293/2025/ND-CP号(労働契約下の従業員の最低賃金を規定)は特別な意義を持つといいます。この時期は企業が翌年の財務計画や労働コスト、人材戦略を策定するタイミングであり、明確なロードマップを伴う早期の政策発出は、企業が資源を主体的に準備し、新年の混乱を最小限に抑えるのに役立つと述べました。
労働者にとって最低賃金は、労働市場で脆弱な立場にある従業員を保護するための下限です。生活費が上昇傾向にある中、最低賃金の調整は最低生活水準の確保や所得・生活条件の改善につながり、労働法の精神にも合致するものです。
今回の7.2%の調整は、労働者と企業双方の利益の調和を考慮し、社会経済状況を総合的に評価した上で策定されました。クオン副大臣によりますと、新たな最低賃金水準は2026年末までの予測最低生活水準を約0.6%上回っており、消費者物価指数の一部も織り込まれているため、労働者は年初からその恩恵を受けられるとしています。
内務省は、管理機関・企業・労働者の三者が実施過程でそれぞれの責任を果たすよう推奨しています。管理機関は指導・監督・迅速な支援を強化し、企業は賃金表や労働契約の見直し、適切な資源配分を主体的に行うこと、労働者も自らの権利を理解しつつ、安定的かつ調和の取れた労働環境維持のために企業と責任を分かち合うことが求められています。
ベトナム労働総連盟のゴー・ズイ・ヒエウ副会長は、2026年からの地域別最低賃金は最低生活水準と比べると依然として一定の隔たりがあるとしつつも、世界経済の変動や供給網、関税政策の影響を考慮すれば、今回の引き上げは受け入れ可能な水準だと述べました。労働総連盟は物価上昇への労働者の懸念を共有しており、国家賃金評議会での協議でも生活費やインフレ抑制が重視されました。同時に、国家による価格管理措置の継続や社会保障政策の拡充も提案されています。基層レベルでは、労働組合が使用者との対話や交渉を強化し、組合員の福利厚生向上を図るとともに、テト(旧正月)期や自然災害などの影響を受けた労働者の生活支援プログラムを実施しています。
ヒエウ副会長は、企業が効果的に経営されることが労働者の所得向上の基盤になると指摘し、労働組合は権利保護に加え、労働者自身が技能を高め、生産性と品質を向上させ、責任を分かち合いながら共に発展することも促していると述べました。
国会文化社会委員会のラム・ヴァン・ドアン副委員長は、低所得が多くの労働者に長時間残業を強いており、健康や生活の質に直接影響していると指摘しています。労働時間の延長による所得増は持続可能な解決策ではなく、根本的な目標は技術革新や職業訓練、質の高い人材の育成を通じて労働生産性を高めることにあるとしています。生産性が向上すれば賃金も上昇し、労働時間の短縮も可能となり、労働者が労働力を回復し家族をケアする余裕が生まれます。賃金政策に加え、高校までの授業料免除や医療保険適用拡大といった社会保障政策も、教育・医療費の負担を軽減し、実質所得をより持続的に改善する役割を果たしています。
ドアン副委員長は、最低賃金の定期的な調整は維持すべきではあるものの、マクロ経済運営や企業の能力といった広い枠組みで検討する必要があると強調しました。国際的な経験からも、賃金引き上げが人材育成、技術革新、社会保障と連動した場合、経済は量的成長から質的成長へと移行するとしています。
2026年からの最低賃金引き上げは、労働者の所得向上への期待を高めていますが、その効果は政策の連動的な実施に大きく左右されます。賃金が生産性と結び付き、社会保障が拡充され、企業の適応が支援されることで、労働市場はより安定し、今後の持続可能な経済成長に向けた確かな基盤が築かれます。