かつては見慣れなかったものの、現在ではハノイ市クアナム区の行政サービス窓口を訪れる人々にとって、AIロボットという特別な職員の存在は次第に身近なものとなっています。
技術がもたらす新たな突破口
クアナム区チャンフンダオ通り在住のグエン・ミン・トゥーさんは、窓口に入るやいなやAIロボットに迎えられ、水の提供を受け、整理番号を発行され、手続きの確認方法についての案内も受けました。トゥーさんは「AIロボットを通じて整理番号をもらうのはとても驚きでした。ロボットの応対がとても自然で、行政手続きを行う際もリラックスできました」と話しました。
クアナム区人民委員会のチン・ゴック・チャム副委員長によりますと、AIロボットは単なる技術機器ではなく、 "親しみやすい行政職員"として、市民に積極的かつ効果的に支援を提供し、興味深い体験をもたらしているといいます。現在、AIロボットは、サービス案内や整理番号の自動発行、オンラインでの意見収集と送信、待合スペースでの飲料水やキャンディーの提供、窓口での相談・案内支援など、さまざまな機能を担っています。
ハノイ市が開発に力を入れているもう一つのテクノロジー製品が、多機能を統合した "スーパーアプリ"として構築が進められている 「iHanoi」アプリです。ハノイ市行政サービスセンターによると、2025年10月1日から、このアプリ上でオンライン行政サービスの整理番号を取得する新たな機能を正式導入する予定です。これにより、市民や企業は従来のように早朝から窓口に出向いて番号を受け取り、順番を待つ必要がなくなり、当日または6日先までの整理番号を「iHanoi」アプリ上でオンライン予約できるようになります。
また、ハノイ市公安も、「iHanoi」アプリ上で新たに「AIチャットボット仮想アシスタント」と「AIコールセンター」という2つの新機能を導入しました。AIチャットボット仮想アシスタントは、市民が公安機関で行う行政手続きに関する質問を行い、回答を得ることができる機能で、住民登録、身分証明書の発行、運転免許証の交付などのサービスに対応しています。また、AIコールセンター機能を通じて、市民は音声でAI職員と直接やり取りすることができます。
ハノイ市が目指しているのは、行政手続きを完全にデジタル環境で申請・処理できるオンライン公共サービスの実現です。インフラ面では、既存の設備を最大限に活用するとともに、最新の情報技術システムへの投資を進め、国家公共サービスポータルやVNeIDアプリとのデータ連携、情報セキュリティの確保にも取り組んでいます。
注目すべき点として、ハノイ市は「スマート運営センター」の構築を進め、行政管理におけるAIの試験導入を行っています。また、市のデータ基盤も継続的に強化されており、市専用のデータ伝送ネットワークは625か所の拠点を結んでいます。さらに、地方行政サービスプラットフォームによるデータ共有・統合基盤も安定稼働しており、28の国家データカテゴリおよび8つの専門システムと接続されています。
市民や企業によるオンライン公共サービスの利用を促進するため、ハノイ市は2025年12月31日まで、一人当たり最大2万6,000ドンの郵送料支援を実施しています。この支援は、功労者や社会保護の対象者、オンライン公共サービスの実施を支援するサービス提供事業者の従業員、そして出張型行政サービスで書類の受け渡しを行う担当者などが対象となっています。
ハノイ市行政サービスセンターの代表によりますと、オンラインで提出された電子行政手続きの処理結果は、「iHanoi」アカウントまたは公共サービスアカウント内の個人ページ上で確認できる仕組みとなっているということです。同センターは、市民や企業が行政区の境界にとらわれず、便利かつ迅速に行政手続きを行えるよう最大限の支援を提供しており、電子環境下での正確かつ迅速な受け付けと処理を実現しています。
科学技術の導入や最新設備の整備とともに、最も重要な決定要因となるのは「人」です。市は同時に、多数の職員を対象にデジタルスキル研修を実施しています。全てのコミューン(基礎行政区)および区では、デジタルトランスフォーメーションを担当するIT専門職員を配置し、行政システムの円滑な“血流”を形成しています。
ハノイ市は、「すべての人のためのデジタル教育」運動と、「二層制地方政府モデルの運用初期段階におけるコミューン・区レベルのデジタルトランスフォーメーション支援45日間キャンペーン」を展開しています。市は、人材と技術インフラの十分な確保、強固なデジタル地域支援ネットワークの構築、そして弱い立場の人々がオンライン公共サービスへアクセスできるよう支援することに重点を置いています。
 これらは、基層レベルで市民に対し技術支援と専門的な回答を迅速に提供し、広範で持続可能な支援ネットワークを形成するための重要な施策と位置づけられています。
ハノイ市科学技術局のグエン・ヴィエット・フン副局長によりますと、同局は関係機関と連携し、支援要員のための研修を実施しているということです。これまでに、青年団員600人、大学や専門学校の情報技術・通信専攻の学生150人が動員され、コミューンや区で昼夜を問わず活動し、住民にオンライン公共サービスの利用方法やキャッシュレス決済、VNeIDのインストール、電子納税などを指導しています。これと並行して、公務員や行政職員、各団体に対し174件のデジタル署名が発行され、インターネットインフラの整備や基層レベルへのデジタル機器の供給も進められています。
現代的で効率的なサービス指向型行政システムへ
技術の活用により、ハノイ市の行政手続きの受理・処理業務は、新たな行政モデルの導入当初から良好な成果を上げています。
2025年7月1日から9月23日までの間に、市は計53万1,269件の申請書類を受理しました。注目すべきは、オンラインで提出された申請件数が直接提出件数を上回り、全体の59.71%を占めた点であり、これは市民の行政手続きに対する行動様式が大きく変化していることを示しています。
キムリエン区(オンライン申請5,364件、直接申請の3倍以上)やトゥーラム村(オンライン申請率60%超)など、多くの地域でオンライン申請の割合が高くなっています。2025年の年末にかけて、ハノイ市行政サービスセンターではすべての申請書類をオンラインで受け付ける体制を整える予定であり、そのうち少なくとも20%以上の申請のすべての手続き過程をオンラインで処理することを目標としています。
一定の成果を上げてはいるものの、ハノイ市における行政手続きへの技術導入は、なお道半ばにあります。ハノイ市行政サービスセンターのクー・ゴック・チャン所長によりますと、期限を超過した処理案件の割合は現在も0.15%にとどまっているものの、いくつかの課題が残されているということです。主な要因として、一部のコミューンで設備が老朽化していること、通信回線の速度が遅いこと、スキャナーや情報照会機の不足などが挙げられます。また、建設許可証や食品衛生施設証明書など、一部の手続きでは依然として公証済み写しの提出が求められており、全過程をオンラインで完結させるうえで支障が生じています。さらに、申請書類の受理・結果返却を担当するチームが新たに任命されたばかりで、業務手順に十分習熟していないことも課題となっています。
現場で生じている課題を踏まえ、ハノイ市は今後も引き続き、施設や設備への投資を重点的に進める方針です。各部門や窓口における機器の使用基準や執務環境の規格を改善し、市民や企業へのサービスをきめ細かく、統一的かつ現代的に提供できる体制を整えていきます。また、市は行政サービスセンターの運営モデルを一層制として最適化することも検討しています。
ハノイ市人民委員会のチャン・シー・タイン主席は、市は行政改革、権限委譲、そしてデジタルトランスフォーメーションを着実に推進し、市民に奉仕する、現代的で効率的な行政の実現を目指していると述べました。今後も、市は業務プロセスの見直しや行政手続きの削減を進め、テクノロジープラットフォーム上での効率化を図っていく方針です。