ホーチミン市 ハイテク農業の発展へ

近年ホーチミン市では、従来型の農業からハイテク農業への転換が着実に進められており、生産性、品質、競争力、さらには農家の収入の向上を目指してバイオテクノロジーの導入が進められています。

ホーチミン市ハイテク農業区のランの試験管内増殖研究室
ホーチミン市ハイテク農業区のランの試験管内増殖研究室

専門家は、現在の状況においてハイテク農業の発展は避けられない流れであり、ホーチミン市の農業を現代的な方向へと導く原動力になるとみています。

急速な都市化により農地面積が減少するなか、「土耕栽培」から「土を使わない栽培」への転換が最適な選択肢となっています。

こうした状況を受け、ホーチミン市バイオテクノロジーセンターでは、植物工場システムを活用したレタスの栽培実験に取り組んでいます。この水耕栽培システムは日本のモデルを参考に設計され、総面積は34.5平方メートルに及びます。

栽培室には10台のラックがあり、1台あたりの面積は0.84平方メートルです。4段構造となっており、1ラックの栽培面積は合計3.36平方メートルになります。このシステムを用いて、ホーチミン市バイオテクノロジーセンターはオランダ、日本、ベトナム産の7種類のレタスを試験栽培しました。

複数回の栽培試験の結果、ほとんどのレタス品種が栽培環境に良好に適応し、年間15回の収穫が可能となりました。生産性と品質はいずれも従来の栽培方法を上回っています。

こうした成果を踏まえ、ホーチミン市バイオテクノロジーセンターは、植物工場モデルを他の高付加価値の野菜や作物の生産にも広げ、技術を農家や協同組合、企業に移転して広く導入を進める計画です。

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ホーチミン市で開催されたハイテク作物展示会での水耕野菜栽培モデルの紹介

作物生産の分野では、ホーチミン市バイオテクノロジーセンターが、観賞植物や薬用植物などの試験管内増殖のハイテク技術、ランの苗や観葉植物、ベトナム産高麗ニンジンの根の組織培養の生産技術を研究・確立しています。また、温室や植物工場システムを活用したメロンやキュウリの栽培、高度な植物ウイルス検出技術の開発なども進めています。種苗製品としては、ランの品種のほか、一代交配種(F1)のメロン、ミニトマト、ゴーヤーなどがあり、これらの技術や製品は、希望する組織や個人への移転が可能な段階にあります。

ホーチミン市バイオテクノロジーセンターのハー・ティ・ロアン副センター長によりますと、同センターではこれまでに、近代的で一体性のある設備をおおむね整備するとともに、高い専門性と活力、熱意を備えた若手研究者のチームを育成してきたということです。

同センターの研究の多くは、実際に応用可能な成果を生み出しており、すでに一定の成果が得られています。今後も、優れた特性や病害抵抗性を持ち、気候変動への適応力、生産性、品質に優れた新たな植物や家畜の品種改良に取り組む方針です。また、農業分野におけるバイオテクノロジー製品の生産に活用できる新技術や改良製品の開発にも力を入れていくとしています。

農業生産の付加価値を高めるため、ホーチミン市はハイテク農業の発展を避けられない流れと位置づけ、植物や家畜の品種改良で国内の中心地となり、将来的には地域レベルへの発展を目指しています。

これまでに、市の農業分野では、生産の各工程をつなぐ一貫した仕組みが整いつつあり、ハイテク農業のエコシステムが徐々に形成されるなど、着実な成果を上げています。

しかし、専門家は、生産における先端技術の導入を進めるためには、農業分野でのデジタルトランスフォーメーション(DX)を一層加速させる必要があると指摘しています。そのためには、ハイテク農業の発展に向けたデジタル技術の活用やビッグデータの構築、"デジタル農民" の育成、さらには生産工程の自動化に重点を置くことが重要だとしています。

さらに、植物や家畜の品種改良における新技術の研究・応用を担う人材の育成にも力を入れ、生産性や農産物の品質向上という高まる需要に応えていくことが求められています。

ホーチミン市農林大学のレー・カック・ホアン博士によりますと、同市の農業におけるハイテク活用には、生産効率を高めるための包括的なイノベーションと高度な技術の導入が必要です。人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)といった先端技術の活用、さらにはデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が、今後の同市のハイテク農業発展の方向性を示すものになるとしています。

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ホーチミン市バイオテクノロジーセンターのラン苗実験場

農地が減少するなか、ハイテク農業や都市型農業の発展、生産への科学技術の応用は、不可避かつ喫緊の課題となっています。

2030年までに、市の農業部門は引き続き、ハイテク、バイオテクノロジー、情報技術、自動化などの先端技術を積極的に導入し、植物、畜産、水産などの分野で高品質な農水産物を生み出していく方針です。こうした取り組みを通じて、生産性、品質、付加価値、安全性、競争力の高い農水産物の創出を目指します。

この目標を達成するため、ホーチミン市は、都市型農業への構造転換を促進する政策や、協同組合や生産から消費までをつなぐ連携体制の発展を推進する政策を実施しています。これらの政策は、農産物の供給・消費に関わる農家、協同組合、企業の連携強化に重点を置いています。

同時に、市は投資需要を喚起し、国内外の企業が、連携モデルや情報技術の活用モデル、デジタル経済、循環経済など、植物・家畜の育種やハイテク農業、農業ビジネスの創出に適した先進的なモデルに基づくプロジェクトへ投資しやすい環境づくりを進めています。

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