家族控除の引き上げを
政府が国会に提出した改正個人所得税法案によりますと、納税者本人の控除額を月額1,550万ドン、扶養家族1人当たりの控除額を月額620万ドンに引き上げることが提案されています。しかし専門家は、この控除水準では納税者の最低限の生活費をまかなう程度にすぎないと指摘しています。
ホーチミン市税務局個人所得税課元部長のグエン・タイ・ソン氏は、提案されている控除額は十分ではないと述べました。同氏によりますと、給与所得者の個人所得税を算出する前に設けられている家族控除は本来、食費、住居費、交通費、教育費、医療費など、生活に必要な最低限の支出を確保することを目的としています。そのため、これらの基本的な支出を差し引いた後の所得のみが、課税対象となるべきだとしています。
そこで、ソン氏は、納税者本人の控除額を月額1,660万ドン、扶養家族1人あたり月額660万ドンに引き上げるべきだと提案しました。
同様に、ホーチミン市企業協会(HUBA)傘下の法律相談センター副所長グエン・ドゥク・ギア氏も、納税者本人の控除額を月額1,650万ドン、扶養家族1人あたり月額660万ドンに引き上げるように提案しました。
グエン・ドゥク・ギア氏によりますと、ベトナムの消費者物価指数(CPI)は752品目・サービスを含みますが、実際に国民が消費するのはその中のごく一部の必需品であり、さらにこれらの必需品の価格は過去5年間で大幅に上昇しているということです。ギア氏、2025年末までに生活必需品の物価指数がおよそ50%上昇する可能性があると予測し、家族控除も50%引き上げることが妥当だと述べました。
現行の控除額がインフレや生活費の上昇に比べて時代にそぐわないものになっていると指摘するホーチミン市工科大学(HUTECH)金融・商学部長のチャン・ヴァン・トゥン准教授・博士は、納税者本人の控除額を月額1,800万ドンに引き上げることを提案しました。この水準は、大都市における基礎的な生活費(食費、住居費、交通費、医療費、基礎教育費)をもとに算出されたもので、こうした生活費はすでに月額1,500万ドンを超えているとしています。
さらに、扶養家族1人当たりの控除額を月額750万ドンに引き上げるべきだとしています。同時に、自動調整の仕組みも設ける必要があるとし、法律の条文に「法律の施行時点または直近の調整時点から消費者物価指数(CPI)が5%以上変動した場合、政府は法改正を待たずに、控除額の自動調整案を国会常務委員会に提出するものとする」といった規定を追加すべきだと提案しています。
税控除で人材競争力の強化を
ベトナムの国際経済への参画が一層進み、特に質の高い人材をめぐる競争が激しさを増すなか、専門家の間では、税控除こそがベトナムを地域諸国と比べてより魅力的にする「鍵」だとの見方が広がっています。
チャン・バン・トゥン准教授・博士は、現行の税率区分が低・中所得層を中心に狭い幅で設定されているため、わずかな昇給でも労働者がすぐにより高い税率区分に入ってしまうと指摘しました。東南アジア諸国と比べると、マレーシアの最高税率は30%、フィリピンとタイは35%ですが、これらの国では最高税率が適用される所得水準がはるかに高く設定されています。一方、高い発展水準を誇るシンガポールでも、最高税率はわずか24%にとどまっています。
また、トゥン准教授は、税率区分を現在の7段階から5段階に減らすという改正案については、簡素化を目指す世界的な傾向に沿った、妥当な方向性と評価しました。ただし、現行と同じく最高税率を35%に維持するのではなく、各税率区分の所得幅を広げるとともに、最高税率を30%に引き下げることで、近隣諸国と比べて優秀な人材や外国人専門家、高度な人材を惹きつける競争力を高めるべきだと提言しました。
改正個人所得税法案について、ホーチミン市経済大学財政学部のチャン・チュン・キエン博士は、国家の重点科学技術プロジェクトに従事する科学者の給与・報酬に対する個人所得税を免除または軽減するという方針について、適切な内容だとの見解を示しました。
この方針は、科学者の経済的負担を軽減し、研究への意欲や献身を高めるとともに、国内の科学研究活動を促進し、優秀な人材を呼び込むうえで地域・国際市場との競争力を強化する効果があるとされています。あわせて、国家が知的専門職に対して敬意を払い、適切な優遇措置を講じる姿勢を示すものでもあります。キエン博士は、これは単なる経済的な優遇策ではなく、国内外の優秀で、祖国への貢献を望むベトナム人科学者を呼び込み、定着させるための前向きな政策メッセージでもあると強調しました。
改正案に医療費や教育費の控除が盛り込まれた点を評価したホーチミン市の元税務官で弁護士のヴォー・タイン・フン氏は、家族控除の適用について、全国一律ではなく、公平性の観点から地域差を考慮すべきだと提案しました。ホーチミン市やハノイのような大都市では、地方や農村部に比べて生活費がはるかに高いためです。ベトナムには都市区分が6段階あり、控除水準もそれぞれの区分に応じて設定する必要があるとしています。