繊維・アパレル産業 付加価値の向上へ

2025年1月から9月までのベトナムの繊維・衣料品輸出額は約348億ドルに達し、前年同期比で7.7%以上の増加となりました。厳しい市場環境が続く中でのこの成果は際立っており、年間輸出目標の480億ドル達成に向けて、業界が確かな基盤を築いていることを示しています。

ガーメント10株式会社における輸出用衣料品の生産
ガーメント10株式会社における輸出用衣料品の生産

現在、繊維・アパレル企業は11月までの受注を確保しており、その後の期間に向けた交渉も続けています。輸出拡大と2025年の目標早期達成に向けた取り組みに加え、各企業は生産性の向上や製品の付加価値向上にも力を注いでいます。

市場圧力への対応

ホアトー繊維・衣料株式会社のグエン・ゴック・ビン社長は、不利な市場変動が続くなか、同社が生産の安定化と輸出拡大に向けて一連の対策を講じてきたと述べました。全社的な努力の結果、過去9か月間の売上高は4兆2,020億ドンに達し、年間計画の83%を実現しました。税引き前利益は3,290億ドンとなり、年間目標の91%に達しています。

年間売上高5兆2,250億ドン超という目標の達成に向け、同社は研究開発を強化し、設備の稼働効率と労働生産性を最大限に高めるとともに、生産・経営の効率向上を図る方針です。製品と受注の品質向上に注力し、各工場の生産能力に応じた製品供給体制を整えるほか、将来の発展を見据え、世界的な技術革新の流れに遅れを取らないよう、スマート工場やモデル工場の設立についても検討を進めています。

グエン・ゴック・ビン氏によりますと、年内残りの期間も綿花や繊維、糸の市場には本格的な回復の兆しが見られないということです。一方で、年末年始やテト(旧正月)の繁忙期を前に、アパレル市場は価格・受注ともにわずかながら上向くと見込まれています。米国市場では消費者物価の上昇が続く一方、衣料品の購買力が低下し、受注のペースや数量が鈍る可能性があります。欧州連合(EU)や日本市場では需要の減少が予想され、環境対応製品や認証取得に対する要求が一段と厳しくなるとみられています。

「受注や価格が低下しているだけでなく、企業間の人材獲得競争も激しさを増しており、とりわけ高収入のハイテク産業、不動産、観光サービス分野との競合が強まっている。とくに、新たな方針に基づき2026年1月1日に地域別最低賃金が引き上げられることで、人件費への影響が避けられない。企業は、労働者の定着と生産の維持に向けて、福利厚生制度の充実、技能研修の強化、自動化の推進などに主体的に取り組む必要がある」とビン氏は強調しました。

ガーメント10社のタン・ドゥック・ヴィエット社長によりますと、2025年最初の9か月間の売上高は計画比104%に達し、前年同期比で14%増加しました。主な収益源は輸出で、これに国内市場とサービス部門が続いています。現在の受注は11月末まで確保されており、一部の製品については年末までの注文も入っているということです。

一方、アメリカの税制政策や世界的な地政学的不安定さの影響もあり、企業は受注減少や単価下落の影響も受けています。

年間売上高5兆ドン、利益1,350億ドン超の目標を達成するため、同社は引き続き市場動向を注視し、新たな受注先の開拓や生産ラインの再編を進めるとともに、厳しい市場環境の中でも納期の順守と品質の確保を最優先に取り組む方針です。また、労働者の確保と定着に向けた対策の検討も進めています。ベトナム繊維・衣料グループ(Vinatex)のカオ・フー・ヒエウ社長によりますと、アメリカの報復関税政策が発効した後、同市場の購買力が急低下し、多くの企業で受注が20〜30%減少したということです。

今後数か月は、上半期の過剰発注や税制の影響により、アメリカ市場での繊維・衣料品需要の減少が続くとみられています。これは、ベトナムの繊維・衣料品輸出額の4割以上を占めるアメリカ市場の変動を背景に、企業が厳しい経営環境に直面していることを示しています。

サプライチェーンでの地位向上へ

カオ・フー・ヒエウ氏は、年初の段階ではアメリカの関税の影響は大きくなかったと分析しています。買い手側が関税発効前に発注を前倒ししていたためです。しかし現在、その影響が企業に明確に表れ始めています。例年であれば年末から翌年第1四半期までの注文を抱えていたところ、現在多くの企業は月ごとに受注を行う形となり、11月分の注文すら十分に確保できていない状況です。ベトナム繊維・衣料グループでは、柔軟な対応策と市場動向のきめ細かな把握により、一定の成果を上げているとしています。

2025年1月から9月の同グループの売上高は1兆4,500億ドン近くに達し、年間計画の79%、前年同期比で110%を記録しました。税引き前利益は1,040億ドンで、年間目標の114%を達成し、前年の2倍に増加しました。

ベトナム繊維・アパレル協会の統計によりますと、今年1月から9月までの繊維・衣料品輸出額は約348億ドルに達し、前年同期比7.7%増となりました。このうち、衣料品輸出が278億ドルを占め、残りは生地、繊維、糸、付属品、ジオテキスタイルによるものです。年末の祭事やホリデーシーズンに向けた消費需要の高まりが追い風となり、業界は輸出額480億ドルの目標達成に早期に近づく見通しです。

ベトナムの繊維・アパレル製品は約140の国や地域で流通しており、こうした有利な要素が今後も業界の成長を後押しするとみられています。一方で、中国を中心とする輸入原材料への依存度が高いことが依然として大きな課題となっています。

例えば、繊維分野で使用される原料の綿花は100%、糸は90〜95%が輸入品に依存しています。また、多くの企業はいまだに受託加工を中心とした生産体制にとどまり、デザイン、ブランド構築、流通といった高付加価値の工程には、資金面や人材面の制約から十分に踏み出せていません。

さらに、ベトナムが締結している自由貿易協定(FTA)による優遇措置を受けるためには、一定の原産地規則を満たす必要があります。

これまでベトナムの繊維・アパレル産業が持っていた低コスト労働力という優位性は次第に薄れつつあり、単純加工中心の大量注文は、より労働コストの安い国々へと移行しています。競争力を高めるためには、生産性の向上や最新設備・自動化への投資を進めるとともに、生産・経営モデルを改革して、高品質で付加価値の高い製品への転換を図ることが求められます。

また、製品デザイン、販路、顧客層の多様化を継続的に進めるとともに、サプライチェーン型の集中工業団地の整備や計画を通じて国内の原材料供給を強化することが必要です。さらに、製品開発およびデザインセンターを設立し、生産力と効率を高めることで、ベトナムの繊維・アパレル産業の国際的地位を一層高めていくことが期待されています。

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